知らない香水の香りが全身を包み込む。
伝わってくる体温も残暑が残るこの時期では暑すぎて。


そんな居心地の悪さに、目の前にある胸を押そうと力を加えようとした時。


男の胸ポケットの携帯が揺れ出し、回された腕の力が少し緩んだ。

暫く放っておいたもののしつこく揺れ続ける携帯に、顔をしかめながらそれを取り出し着信相手と話し始めた。



「あぁ、だから必要ない」

「分かってる」



淡々と話を進める声が頭上から聞こえる。

回す腕が右手だけになった今なら抜け出せるかと力を入れて試みるも、逃がすまいとする男の力には適わなかった。



こんなところ、お客さんにでも見られたりしたら、大変なことになる。



人の目が気になる私は諦めずに再び力を入れる。



すると今度は簡単に体が離れ―――…


男の胸から解放されたことに安堵の溜め息が出た。


.