ビルの隙間吹き抜けた風が、私と男の間を流れて行った。


ふわり、と。
男の前髪が揺れる。


くっきりとした二重の切れ長な、色を持っていないその瞳に困惑したあたしが映っていた。


綺麗な顔…
だけどそう思ったのは一瞬で。


怒ってる?


無表情な男の顔が。
何も言わない男の態度が。


それは謝るのを待ってるから?


引っ張られたことがそんなに気に入らなかったのだろうか。


だとしたら。
だとしても。


本当にそうなら理不尽極まりないないんだけど。


「えっと…「やっぱり」


――離して。


そう続くはずだった言葉は、男の低い声に遮られた。


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