残冬が長引いた、今年の新学期は、とても肌寒かった。


 桜なんてどこにも咲いてないし、虫の音もまだ聞かない。


 太平洋気候のこの場所では雪は降らないが、日本海気候の特に東北、新潟、北海道では、まだ雪が降っているらしい。


 そんな肌寒い新学期を、山崎祐太はコートで身を包みながら、祈るように歩いていた。


 思うことは一つ。


「どうか、Sクラスにはなりませんように。」


 声に出して祈っている時点で、彼は相当追い込まれている。


 小中一貫教育の私立焔学園、その中でも特に中学2年のクラス替えは生徒の一生を左右するものといっても過言ではない。


 普通ならSクラスという『特権階級クラス』は、誰もがそこを目指して、小学校から死に物狂いで目指すようなクラスなのだが、臆病者の山崎祐太にしてみれば、そこはまさに地獄の釜戸といっても過言ではないようなクラスだった。


「よぉ、祐太。いよいよ今日だな、楽しみだな。」


 しかし、そんな気持ちも露知らずな友人が一人。


 短髪、釣り目、犬歯がまぶしいTHEヤンチャ坊主、斉藤雄二さんである。


「あ、おはよう、雄二。」


「おぅ・・・って、朝から何しけた顔してんだよ?」


 むしろ、なぜ雄二はそんなハツラツとした顔が出来るんだよ?