マリアと新山の距離は端と端と言っても過言ではないほど離れていたが、新山の声はよく響いた。
マリアは、新山のように大声で話す元気も持ち合わせていなかったので、新山が座っている監督席まで行き口を開いた。

「相変わらず、大きな声ですね」

「そうか。そんな誉めるなよ」

けなしたつもりで放った言葉は、新山の脳内ではほめ言葉として捉えたらしく、照れる姿にマリアは呆れてしまうものの、そのポジティブ精神に拍手を送りたくなってしまう。

「黒澤、去年の試験は綺麗だったからな。今年も期待しているぞ」

新山から激励をされてしまい、マリアは一応頷くことにした。
女性の体育教員は2人しかいないため、二分の一の確率で新山の担当になる。
一年時も体育が新山担当で、同じようにマット運動のテストが実施された際、新山はマリアの試験の審査をそっちのけで、マリアが終了後に歓声をあげたため、新山にとっても印象深かったのだろう。

「黒澤って本当に身体柔らかいよな。また割りとかできるだろ?」

できるだろ?、と尋ねられれば、できるのでマリアはまた頷く。

「そうか。ならやってみろ」

急なむちゃぶりだと思ったが、新山から早く解放されたかったマリアは股を開き、下半身を少しずつ床へと近づけていく。

マットのないところで行ったため、少しずつ床に体温を奪われるが我慢して床に密接させた。

「これでいいですか?」

「…あぁ」

限界まで開くと、目上にいる新山に問うと、なんとも気の抜けた返事が返ってきたため、マリアは立ち上がり新山の元を立ち去ろうとした時に、タイミングよくチャイムにより終わりが告げられた。