阿久津が高沢の反応に気づいたのか、レジを済ませ、客を見送るとこちらにやってきた。

「阿久津、うるせーよ」

高沢は照れ隠しなのか、阿久津にとてもありがたくないげんこつを落とした。
ゴツッという頭が変形するのではないかという鈍い音が辺りに響く。阿久津はもうげんこつを喰らいたくなかったのか、いそいそと接客へと逃げていった。

「マリア、とりあえずそこに座れ」

高沢はカウンター席を指差すと、そのままカウンターに入り、ミルクを暖め始める。そして、棚からココア缶を取り出しマグカップの中に入れると、ほどよく温まったミルクをその中に注ぐ。そして、ティースプーンを一つ取り出すと、マグカップに入れ、クルクルと円を描き始めた。

「ほら」

マグカップからティースプーンを抜くと私の前に置かれた。

「ありかとうございます」

マグカップを寄せて、今もなお、竜巻のように真ん中を中心に渦を巻いているのを呆然と眺めていると、

「冷めちまうぞ」

の一言で、 私はマグカップを両手で持つと少しだけココアを含んだ。

「あつっ!?」

あまりの熱さに私はビクッとつま先まで痺れが走った。