「マリアか…良い名前だな。嬢ちゃんによく合ってるよ」

正直、名前を誉められることは嬉しい。それは、両親が私に最初にくれたプレゼントだからだ。
仕事中心の両親でも、愛情の籠もった自分の名前は、私自身がとても愛されていることを実感できた。

「俺は高沢。“高沢さん”や“マスター”とかみんな好きなように呼ぶから呼んでいい」

今だから文句言えるけど、当初は何でも言いと言ったくせに今更“ボス”と呼べば起こられる始末。本当に大人はずるいと思ってしまう。

「まぁ、ココア煎れてやるからこっちに来い。後、明日から働くバイト先も見ときたいだろ?」

本当に明日から働くのかと思うと気分が沈む。

「何してんだ?早く行くぞ」

私が付いてこないのがわかったのか、振り向いて私を急かした。

嫌々ながら、大股でいく高沢の後に続く。厨房のようなところへ通ると、カウンターが目に入った。

「すごい」

レンガで詰まれた洋風な店内は、とても温かみがあり、落ち着いた空間だった。
家具類もダークブラウンで統一されており、とても年期が入っているが、大事に使われているおかげか、とても味わいのある色となっていた。
そこに、焙煎されている珈琲の匂いとジャズの音色がとてもマッチしていた。

私は、瞬時にこのお店が気に入ってしまった。

「素敵なお店ね」

「ん?あぁ~」

私の言葉に高沢は照れたのか、曖昧な返事をした。

「あ、高沢さんが照れてる」