「休みが取れたぞ。後、辞めることも伝えてきた」

男の話は進みすぎていて、私はその内容に全くついていけていなかった。

「休み?辞める?」

「そうだ。今日からお前はここでアルバイトだ」

この人は一体何を言っているのだろうか。

勝手に本人の許可なく転職させられてしまったのだ。

「何?その子、ここに入るの?」

話を聞いていたのか、消えたはずの阿久津がひょっこり顔を出し男に尋ねる。

「あぁ。雑貨屋のお姉さんに頼んだら、すぐに許可が出たよ。嬢ちゃん、良かったな」

そうまだ少し濡れている頭をガシガシと強く撫でられるが、頭の中では、なぜ?どうして?、という疑問符で混乱していた。そんな私を余所に男は、

「ようこそ、嬢ちゃん。喫茶店『キャッツ』へ」

と、髭をいじりながら、二マッっと意地悪く微笑んだ。

そのままあれよあれよと言う間に話しは進んでいき、いつのまにかバイト着まで渡されて、シフトにまで自分の名前が書き込まれていく始末に、マリアはただただどうしていいかわからずアタフタとしていた。

「今日から同じバイト仲間だね。俺、阿久津。今は専門1年だよ」

そう兄ちゃんは笑いながら手を差し出してきたので、

「黒澤マリアです。南高の一年です」

私も自己紹介をし、握手を交わした。