眼光が鋭く光るのがわかった。まるで、獲物を捉えた肉食獣のようだ。後は、徐々にいたぶり弱らせ、命を弄んでいく。

先輩は男の名前に反応し、私と男を交互に見ると、一歩足を後退させる。そして、勢いよく、私を置いて走り去っていった。

「腰抜けが。尻尾巻いて逃げやがった」

男は舌打ちを打つと私に近づいてきた。以前、ビールケースを持ったままだ。

「大丈夫か、嬢ちゃん?」

その声は先ほどとは違い人情味が溢れている。

「はい。でも、尻尾は生えてないと思いますよ。人間ですから」

真面目に言ったつもりだが、男は一瞬目が点になったかと思うと、大爆笑する。

「尻尾って…狸が人にでも化けたみたいだ。アイツの後ろには尻尾が生えてたよ。尻尾をケツの中に丸めて入れてたぜ」

豪快にまだ笑っている男を見つめると、ハッとあることを思い出した。

「バイト!?」

時計を見ると既にバイトの時間が始まっていた。急いで立ち上がろうとする。

しかし、打ちどころが悪かったのか鈍い痛みが走り、顔を歪ませる。

「おいおい、嬢ちゃん。さっき突き飛ばされたばかりだろ?」

呆れ口調で呟く男は、ビールケースを道の隅に置くとこちらに寄ってきた。

「痛むか?」

腰を落とし、目線を私と同じ高さになったことにより、男の顔がはっきりとする。
無精髭はやはりインパクトがあった。