「中山のじーちゃん、今日は気になる人はいたの?」

注文の珈琲をテーブルに置き、さりげなく私もその隣りに腰をかける。
中山のじーちゃんはカップに口を近づけて飲み、口腔内を潤す。

「やっぱり『キャッツ』の珈琲が一番だね」

そう私に微笑みかけてくる。

『キャッツ』の一番の自慢は自家焙煎の珈琲だ。ボスである高沢さんの目に合格した豆しか使用されず、それを工場に任せずに自分で焙煎している。
個人経営なため、そんなことをやっていては経費が嵩むのではないかと私は思うのだが、男のこだわりなのかプライドなのかわからないが、辞める気配はない。
だが、これのおかげで固定客も着いており、毎日それなりに忙しいのに、なぜかバイトが3名しかいなかった。

私の勘だが、もうバイトを雇えるだけの金がないのだと思う。