その背中を見送った憂は、
ハッと息を吐き出した。


「平気?ほんとに酷い血だ。」


憂が言った。


「痛い。」


不機嫌に言うと、
憂はフワッて笑った。

「消毒、したほうがいい。」

言われて、指差される。

あっちに救護室があるんだろう。

でも気が抜けたら本当に痛くなってきて、
もう一歩だって歩きたくない。


「仕方ないなぁ。」


憂は言って、
自分がつっかけていた大学の名前入りのスリッパを脱いだ。


「これ履いて。」

あんた、靴下汚れる。

「靴下は洗えばいい。」


私の思ったことを正確に読んだ憂は、
そう言って笑ってみせた。

私はおとなしくスリッパに足を入れた。

改めて靴から抜くと、
靴にも血が染みていた。

憂は私のパンプスをひょいと拾い上げると、
歩き出す。

それを追い掛けた。


「座って。」

言われた椅子に腰掛けて、
私はその部屋を見回した。

救護の先生なんかがいるわけでは無いらしい。

「医学部だからね。」

憂はもっともらしい事を言った。

まぁね、
周り中みぃんな医者か医者のタマゴだもんね。

憂は床にひざまづいて、
私の足をそっと持ち上げた。

「ああ、ストッキング履いてるのか。」

憂は言った。

「脱ぐのめんどい。」

言ったら、
憂は笑って大丈夫と言った。

「とりあえず上から消毒しておこう。」

憂はいいながら、
消毒液を傷口にかけた。


「いっ…っ」

しみる。
最悪。

憂は丁寧に傷口をふくと、
ストッキングの上から絆創膏を貼った。


「こうしておけば、取り敢えず傷口は保護できる。」

憂はそう言って、もう一方の足も同じように消毒した。