電話が鳴らない。
別にどうって事ないのに。
携帯をさっきから何度も開いてる。
腹立つ。
アイツの時間の感覚がやたらと曖昧なのは承知の上で。
それすら、愛しいと思う自分に腹が立つ。
こちらからはかけられない。
あの馬鹿は、
講義や会議の最中でも必ず出るから。
馬鹿だ。
君の為なら当たり前だとかなんだとか、
虫歯になりそうな発言にも、もう慣れて。
だったら、さっさと連絡をよこせとか、
自分勝手な思考に支配される。
携帯が不意に鳴り響いて、
少し驚いた。
研ぎ澄ましていた感覚に、
どでかい魂の端くれが引っ掛かって。
通話のボタンを押す。
「何か、買っていく?」
いきなり言われて、
彼はまだ私の心が読める位置にはいない事を悟った。
それで、少し優越感を覚える私はきっとおかしい。
「別に。」
素っ気なく言うと、
彼はクスリと笑った。
「わかったよ。早く帰る。」
ムカつく。
読めてるんじゃないか。
なのに、わざと聞いたんだ。
「悪かった。待たせて。」
彼の声が耳の奥で響く。
「私、」
そこまで言ったら、彼はクスクスとまた声をもらした。
ホントにムカつく。
『1:アンタのそういうところが……キライ』
嫌いだよ。
嫌いなのに、
いいから早く帰ってこいって、思う私のほうが馬鹿だ。