要が隣で、静かな寝息を立てている。しっかりと、俺の手を握って。
 きっと既に日付は変わっているだろう。それでも、今も尚、雨音は絶えない。
 正直、昼間の要の涙の理由(わけ)が気になって仕方がない。が、詮索する気も毛頭ない。
 あの後俺と要は、言葉を交わすことなく、唯、雨が降るのを眺め続けた。そうしていると、いつの間にか夕食の時間が来ていて、その頃には要の涙もすっかり乾いていた。
 ありがとう、と、要は言った。小さな小さな声で、そう言った。
 なぜ礼を言われるのかはわからなかったが、もう1度要が、ありがとうと言ったので、どういたしましての代わりに、丁度俺の目線近くにある頭を撫でてやった。何度も、何度も。
 その後の要はというと、いつもと同じだった。
 美味しい美味しいと、おばあちゃんと母さんの作った料理を食べ、縁側ではよく冷えた今日のデザートの西瓜(すいか)を食べながら、夜の帳が完全に下りきった庭へ、俺と一緒に種を遠くまで飛ばして遊び、ここに来てからは正直言って忘れていた勉強に少しだけ手を付け、そして今夜も悪戦苦闘の末2人で張った蚊帳の中に敷いた布団に潜り込んだ。
 …なんだか、余計な心配のように思えてきた。気のせいならばそれに越したことはない。