夜はいつも、要と…手を繋いで…眠る。
「…俺は願うよ…」
「…何を…?」
「…これが夢じゃないことを」
 すぐ隣でクスクスと要は笑う。
「…確かめてみる?」
「…何を?」
「…夢じゃないかどうか」
 要はそう言って、体を起こした。そして、繋いだ左手とは逆の右手を、俺の…左頬に…。
「いででででっ」
 要は俺の左頬をつねったのだ…しかもわざわざ爪まで立てて…。痛いなんてもんじゃない。俺が涙目になりながら細く白い要の手首を掴んでようやく痛みから開放された。血は出ていないだろうかと触ってみる。良かった、大丈夫みたいだ。
「夢じゃない?」
 …完全に遊ばれている。このイタズラな要の笑顔を見れば一目瞭然。
「ねえ、夢じゃない?」
 それでも、願うことがひとつだけ…。
「…夢じゃ、ないよ…」
 発展途上なこの思い。
 俺は、唯、願う。

 いつもにも増して湿気の多くなる雨の日。俺は要と縁側に並んで座って空を眺める。
 雨は嫌いじゃない。出掛けた時に何の前触れもなく降られるのはかなり不愉快だが、こうやって、唯ぼーっと眺めているだけなのも、そしてこの妙なじめじめも実は好きだったりする。
「私もだよ」
 要は微笑ってそう言った。
「雨の日って、いろんなこと思い出すの」
「例えば?」
「例えば…」
 …しばらく何も言わず低い空を見つめていたと思うと、ゆっくりこっちを見、
「…忘れちゃった」
そう小さく呟くと、胡座(あぐら)をかいた俺の右足の上に頭を乗せて寝転ぶ要。
「…ごめん」
 小さな、小さな声だった。
「…ごめんね…」
「なに謝ってるんだよ。いいよ、別に」
「……ごめんね……」
 …3度目のごめんで、ようやく、要が泣いていることに俺は気が付いた。
 何も訊かず、気づかないフリをして…そうしたほうがいいと、なんとなく思った。

 雨が降る。
 俺に。要に。―――世界に。