「さよならは言いたくない」
 俺はそう言って、足元に置いていたスポーツバッグを肩に掛ける。上手く微笑えている自信は全く無い。その理由は、間違いなく…。
「要は、ここにいるって言ったよな」
 間違いなく、発展途上なこの想い。
「……だから、ここに来るから、絶対」
 ―――君を想おう。
「絶対…また会いに来るから」
 何時も、何処にいても、君を想おう。
「……またな」
 この1週間、要はずっと、隣という俺の最も近い場所にいてくれた。要の与えてくれたものは、形のないものばかりだけれど……唯、隣にいてくれていただけで…唯、手を繋いでいてくれただけで……たったそれだけで…俺は…俺は……。
「――さよなら――」
 それは、俺が言いたくないと言ったばかりの言葉。弱く小さいれど、確かに呟いたのは、要…。
 何か言いたかった。
 なぜ、どうして…そんな言葉じゃないのはわかってる。けど、どうしても言葉が浮かばなくて。
 俺が何も言えないまましばらく無言で向かい合っていたが、要は結局こっちを見ることなく、くるりと俺に背を向け…1歩、また1歩と、俺との距離を作っていく。白く透けるような肌が、陽の光に照らされ輝く。