じろじろ見て無礼だと言われるのかと目を伏せると、殿はしばらく考え込んでいた。

時間にしてどのくらいが経ったのだろうか。

長い沈黙を破り、ようやく殿が言った。

「鎖迅、と言ったな」

ハッ、と畏まりながら、俺はついに叱責が来ると身をこわばらせた。

しかし、殿の言葉は意外なものであった。

「まぁそう身構えずともよい。
実は若菜は書物が好きでな」

突然そんな話を振られ、つい訝しげな視線を向けてしまう。