「うん?」

秘密の出入口から、情報倶楽部の部室前に来た高坂はいつもと違う空気を敏感に感じ取り、ドアを一気に開いた。

「舞!」

学園生活の殆どを部室で過ごす舞がパソコンの前に…はいたが、椅子に紐で縛られていた。

「無用心ね。通路の認識機能をオフにしているなんて…。ここの入口の場所を知ってる者なら、簡単に入れるわよ」

舞に駆け寄ろうとした高坂は、左側にある奥の部屋から声がした為に、足を止めた。

「!?」

驚き、振り向いた高坂は、さらに絶句した。

薄暗い奥の部屋から、鉄仮面の女―黒谷麗華が出てきたからだ。

「どうしてここが!」

高坂は慌てて、学生服の内ポケットに手を伸ばした。

「やめておいた方がいい。その力では、あたしを倒せない」

「何!?」

「それに…」

麗華は、部室内を見回し、

「ここに、あたしがほしいものは何一つもないから…」

クスッと笑った。

その笑みの中に、嘲りよりも懐かしさを感じ取った高坂は、一歩前に出た。

「あんたは…一体?」

訝しげに自分を見る高坂に、麗華は微笑むと、

「知りたい?」

首を傾げて見せた。

「!」

高坂は息を飲んだ。鉄仮面で覆われている麗華の表情でわかるのは、目だけだ。

それなのに、口許や見えないところの微妙な変化を感じ取っている自分に気付いたからだ。

前に出たはずの自分の足が…逆に一歩下がっていたことに気付き、高坂は下唇を噛み締めた。

「クッ」

そして、全身に気合いを入れると、前に出ようとした。

「拓真のことは感謝しているわ」

唐突に、麗華の口から出た言葉に、高坂の動きは止まった。

「え」

その横を、麗華が通り過ぎていく。

「あいつの呪縛を解いてくれて」

耳元で優しく風のように、囁く声よりも、高坂は先程女の声から感じた懐かしさを思い出した。

「あ、あんたは!」

高坂は、すれ違った麗華の方に振り返った。

「部長を知ってるのか!」