そして、フンと鼻を鳴らすと、男は女の方ではなく、反対側に歩いて行った。

「ソリッド!」

玲奈と言われた女が叫んだが、男は足を止めなかった。

「クッ!」

九鬼は無傷で終わった腕を見て、顔をしかめた。

「…」

玲奈はそんな九鬼をちらっとだけ見ると、背を向けて歩き出そうとした。

「ま、待って!」

九鬼ははっとすると、慌てて声をかけた。

九鬼の声に、玲奈は足を止めた。

「このオウパーツの能力とは、何なの?」

多分敵であるはずの玲奈に、なぜそんなことを訊いてしまったのか。

その理由は、簡単だ。

知らないからだ。

そして、知りたいからだ。

その素直な質問に、玲奈は背を向けたまま答えた。

「オウパーツとは、最強の盾。すべての攻撃を否定する」

「最強の盾…」

「すべてを否定するということは、すべてを拒絶するということ」

「そうか!」

九鬼は、先程のソリッドと言われた男の左足の振動波を思い出した。

「あれは、否定する力か!」

「…」

玲奈は頷くことなく、足を進めた。

九鬼はその後ろ姿を見つめながら、それ以上は訊けなかった。

「否定する力…」

九鬼は、視線を足許に目を落とした。

オウパーツをつけられてから、黒のニーソで隠した足を見つめ、九鬼は目を瞑った。





「…」

無言で廊下を歩く玲奈は、自らの左腕を無意識に押さえた。

左手だけにした手袋。制服で隠した腕は…やはりオウパーツで包まれていた。

玲奈が腕に触れた瞬間、全身に震えが走った。

まるでオウパーツが、装着者である自分をも、拒絶するような感触。

しかし、玲奈は己を見ることなく、顔を上げると廊下の左側にある窓に顔を向けた。

「ジェース!?」

窓ガラスの向うから、ジェースとカレンの姿が目に飛び込んできた。

「どうして…ここに来たの…」

玲奈は、自らの左腕を抱き締めた。

すべてを拒絶するオウパーツ。しかし、オウパーツ同士は引かれ合う。

その矛盾が、装着者を苦しめていくことになる。