「甘い!」

しかし、男の離れる動きが速い。そして、蹴りの軌道も変わった。

「密着さえしていなければ!」

男の左足が天高く伸び上がる。

「いつでも当てれるわ!」

かかと落としの体勢で、さらに膝を曲げることで、九鬼の体に叩き込もうとしていた。

その動きを足の付け根の筋肉の動きで見切った九鬼は、両手の親指を立てた。そして、足が上がったと同時に、付け根に指を突き刺した。

「!?」

男はあまりの激痛の為に、足を振り下ろすタイミングが狂った。

「フン!」

九鬼はすぐに指を抜くと、痺れが取れていない右足で、男の右足を払った。

「くそ!」

そのまま簡単に転けると思われた男は、左足を即座に下ろすと、力を込めた。

すると、左足が廊下にめり込んだ。

めり込んだ足から、ひびが廊下の表面に走った。

咄嗟にジャンプした為、ひびが九鬼の爪先が触れることはなかった。

「振動波か」

九鬼は、その様子を見ながら、オウパーツの特色の一つを理解した。

「き、貴様!」

男は左足を抜くと、九鬼の右足に払われた己の右足を見た。

九鬼が、オウパーツの能力を使うことができていたら、自分の右足はなくなっていただろう。

その分析が、男のプライドを傷付けた。

「許さん!」

左足を覆っていたズボンの布が消し飛び、金属に似たオウパーツが剥き出しになった。

床から足を抜くと、腰の捻りを加えた蹴りを放った。

(速い!)

九鬼は、まだ痺れている右足では間に合わないことを悟った。

腕一本を犠牲にしても、この身を守ることを即座に決め、九鬼は右腕を上げた。

「何をしてる!」

その時、九鬼と男のいる廊下に、鋭い声が響いた。

「!?」

九鬼の腕に、男の左足は触れる寸前で動きが止まっていた。

「何勝手なことをしてる!我々の意思は、つねにシンクロしていなければならない!個人的な行動は、禁止されているはず!」

廊下に現れたのは、4人組の内の1人…黒髪の女だった。

「玲奈か…」

女を見た瞬間、男は足を下ろした。