「魔王が復活した」

男はその言葉を発した後、数秒だけ黙り込んだ。後藤を見る視線だけが、鋭さを増した。

「な、何!?」

後藤の手から、簡易灰皿がこぼれ落ちた。

「ば、馬鹿な!」

灰皿を拾わずに、興奮して詰め寄ろうとする後藤に、男は目を細め、

「仕方あるまい。我々人間は、魔王に対して何かした訳ではない。このしばしの平和は、たった1人の異世界から来た勇者によって、もたらされたもの」

男は視線を後藤から、村や周囲の自然に向け、

「感謝こそすれ…慌てるのは筋違いだ」

空気を吸い込むと、再び背を向けて歩きだした。

「ま、待て!」

手を伸ばし、止めようとする後藤。しかし、男は止まらない。

後藤は舌打ちすると、簡易灰皿を拾い、後を追った。

「しかし…絶望だけではない。希望もある」

男は、整備された道を歩きながら、振り返らずに話し続ける。

「希望だと!?」

隣まで追い付いた後藤は、男の方を見た。

「赤星浩一が復活した」

男は前を向きながら、後藤の方を向かない。

「何!?」

その報告で、後藤の心の中に光が灯った。

「昨日から、地球のあちこちで小規模ながらも、魔王軍の攻撃が始まっている。その戦地に、必ず駆け付ける者がいる。ある時は…天使。そして、ある時は…雷鳴轟く剣を振るう勇者」

「それが、赤星浩一!」

後藤は、笑顔になった。

「だが…」

その笑顔を否定するかのように、男は重い口調で言葉を続けた。

「それでいいのか?」

男は足を止め、後藤を見た。

「え」

すぐには止まれず、少し前で足を止めた後藤は振り返った。

「我々は、それでいいのか?人間は、それでいいのか?異世界から来た少年に、任せるだけで!」

男の言葉は、安堵の気持ちを抱いてしまった後藤の心に突き刺さった。

「この世界の人間は、守られるだけでいいのか?」

男は、後藤を睨んだ。