「そうだな…」

後藤は煙草を喰わえながら、呟くように言ったが、頷きはしなかった。

「伊賀部隊の全滅はショッキングなことだったが…それ以上のショックなことが起こったのさ。だから…ここに来てもわからないはずだ」

男の言葉に、後藤は煙草を吸うのを止めた。

「どういう意味だ?」

眉を寄せて、後藤は男の方を見た。

「…」

男は無言で、村に背を向けると、ゆっくりと歩きだした。

その動きを、後藤は目で追った。

男が足を止めないことに気付くと、後藤は吸いかけの煙草を携帯用灰皿を取り出すと、捩じ込んだ。

「チッ」

舌打ちすると歩き出そうとした後藤の動きを止めるかのように、男は話し出した。

「簡単なことだ。戒厳令だ」

「戒厳令だと!?」

後藤はその言葉に、絶句した。

「フッ」

男は軽く笑うと、足を止めて振り返った。

「そうだ」

「ば、馬鹿な!誰がそんなものを!」

驚きながらも、事態を推測しょうと考え込む後藤の姿を見つめながら、男は話を続けた。

「詳しくは知らない。なぜならば、戒厳令だからな。俺のような下っぱの刑事に、情報が来る訳がないだろ?」

「な」

目を見開く後藤に微笑みながら、男は視線を村に戻し、

「だから、わざわざ来たのさ。その村にな」

少し目を細めた。

「成る程な…。何か掴んだな?」

後藤もまた、口許に笑みを作った。

「掴んだことは、大したことじゃない。だが…そこから導かれた答えが…絶望に近い」

男はそう言うと、煙草ケースを再び取りだし、一本を口に喰わえた。

「ふぅ〜」

ゆっくりと煙を吐き出す男の行為に、後藤は逆に落ち着きよりも焦りを感じた。

「空気よりも…こんな煙が美味く感じるとは…人間は…いや」

男はまた自嘲気味に笑い、

「俺が、汚染されているのか」

そう言うと、すぐに煙草を吸うのを止めて、真剣な眼差しで後藤を見た。

その視線の鋭さに、後藤は思わず息を飲んだ。