何とか立ち上がったが、すぐによろけて、廊下の窓ガラスにぶつかった。

「加奈子!」

思わず支えようとする九鬼の手を、加奈子は払った。

「お前に助けて貰う気はない!」

ふらつきながらも、加奈子は九鬼を睨み、

「お前は…いつも先をいく。そして、遅れて来るおれに、手を差し伸べて、同じ位置まで連れて来ようとする!おれが、魔獣因子に目覚めた時!やっとお前を超えることができた…いや、並べたと思ったのに!」

加奈子の瞳から、涙が流れた。

「お前は、おれと真剣に戦おうとしなかった!お前は、いつもいつも!あたしの気持ちを踏みにじる!」

「か、加奈子…」

九鬼は何も言えなくなった。

初めて、気持ちをぶつけられているような気がした。


いや、違う。

さっき戦った時も、加奈子は九鬼を全力で倒しに来た。

(だけど…あたしは…)

九鬼の全身が、震え出した。

「そんなお前を!おれは憎んでいる!」


(ああ…)

加奈子の言葉に、一瞬…崩れ落ちそうになったが、九鬼は何とかこらえた。

「だけど…」

それは、加奈子の口調が変わったからだ。

「おれは…」

ここで、加奈子は口を閉じると、スカートのポケットに手を突っ込み…あるものを取りだすと、九鬼に差し出した。

「こ、これは!?」

予想もしなかったものが、加奈子の手の中にあったからだ。


「乙女ケース!」

黒い乙女ケースを、加奈子が持っていたのだ。

九鬼は慌てて、自分が持っている乙女ケースを確認した。

ここにも、乙女ケースがあった。


「理香子からだ…。おれに託された。闇の力で、時空間をこえる前にな」

「!?」

九鬼は驚きで、何も言えない。

そんな九鬼に、加奈子はフッと笑いかけた。

「理香子が言っていた。ここは、魔物だけでなく…神々が存在する世界。普通の乙女ソルジャーでは、勝てないとな」