「やっと…海を渡ったかと思ったら…雪かよ」

日本海の荒波を何とか、密輸船に乗り込んで越えて来たティフィンとジェースと言われる少年は、京都の北部を歩いていた。

ティフィンの力で、ジェースの右腕につけられたオウパーツを封印しながら進んでいた為に、4人の追跡者からは逃れることができた。

さらに、2人とも恐ろしい程の方向音痴であったことも幸いし、追跡者が追い越すという奇跡的な状況にいた。

まあ…一概には、それだけが理由とも言えないが…。

彼女達は、リンネによって…最後の行方不明となっていた腰のオウパーツのありかを知らされていたからだ。

さらに、右足を持つジャスティンが、極楽島に来ることも予測していた。

なぜならば…空の女神は、ティアナ・アートウッドがトドメを刺さずに、封印した相手だからだ。

彼女の残した後始末を、ジャスティンがしないはずはないと確信していた。

(人間は、面白い)

リンネならば、そう思っているだろう。

「大月学園ってどこだ!」
一面の雪景色の中、ティフィンは叫んだが、答える人間はいなかった。

「とにかく、南なんだよな」

と言って歩き出したジャスティンは、東に向かっていた。

「そっちじゃないだろ!」

ティフィンが示したのは、南東だった。

少しだが、近づいていた。

そんな2人の後ろを見守る影があった。

降り積もった雪が、歩く度に足を取り、音を鳴らす空間で、フードコートを身につけた影は、ただじっと2人の背中を見つめていた。


「うん?」

しばらく歩いてから、右腕に違和感を感じたジェースは、後ろを振り返った。

しかし、そこには誰もいなかった。

「どうした…ジェース?」

ティフィンの声に、ジェースは雪景色に残った自分の足跡に目を落とし、呟くように言った。

「日本か…」

この地区に来るまでは、何の感慨もないと思っていたが…来てみると締め付けられるような思いがあった。

ジェースは、首からかけているIDカードを取り出した。

そこには、生まれた地区と名前が刻まれた。

日本…そして、牧村優と。