「い、いえ…こちらこそ…」

輝が頭を下げると、理沙はそそくさと自分の教室に向かって早足で歩き出した。

そんな理沙の背中を、輝はしばらく見送ってしまった。

同じ極楽島で戦った仲間であるが、今の理沙はあの時の理沙でない。

親友である九鬼の危機を知り、この世界に意識だけを転送させた月の女神が、理沙に憑依していたのだ。

月の女神の話であると、神となった自分が留守にすると、実世界が混乱するらしいのだ。

だから、肉体を向こうに残し、意識だけを飛ばしたらしかった。

空の女神が死んだことで、月の女神は自らが創った世界に戻っていった。



「真弓…あなたは戻らないのね」

世界を結ぶ道を開け、その前に立つ…相原理香子の姿に戻った月の女神は、振り返り、後ろに立つ九鬼を見た。

「うん…。あたしは、この世界で戦うわ。魔王も復活したし…」

九鬼は、理香子を見つめ、

「大したことはできないけど…ほんの少しでも、人々の役に立ちたいから」

微笑んだ。

「わかった」

理香子は頷くと、

「それでも、みんな…待ってるからね。あなたの帰りを」

九鬼に微笑み返した。

「ありがとう」

その会話を最後に、理香子は実世界に戻った。

それは、九鬼逹が赤星浩一に会った直後だった。

気を失っている綾瀬理沙は、さやかに抱き抱えられていた。


「さあ〜」

アルテミアの隣にいた僕が、一歩前に出た。

「ここからが、本題です」

僕は、月の女神が去った余韻を打ち消すような衝撃的なことを、周りにいる生徒逹に告げた。

「この島を沈めます」



「ええ!」

僕の言葉に、一斉に驚く生徒逹。

「お、おはようございます」

そんな空気の中、寝惚け眼の梨々香が森の中から、姿を見せた。

「はあ〜」

その様子を見て、さやかは大袈裟にため息をついて見せた。

「?」

みんなの緊張した雰囲気に、ただ…首を傾げる梨々香。