「ば、馬鹿な…」

視界が回転し、天と地が逆になる感覚よりも、真由は自分の置かれている状況に唖然としていた。

「真弓!」

肩車で、真由を投げた九鬼の背中を跳び箱のようにして、理沙はジャンプした。膝を曲げると、背中から地面に落ちた真由の首筋に叩き込んだ。

「こ、こんなことが」

痛みよりも、翻弄される自分をすぐには、認められなかったのだ。

「とどめよ」

真由から離れた理沙の前に、プラチナの乙女ケースが飛んで来た。すると、乙女ゴールドの足に、プラチナのブーツが履かれた。

「月光…」

「なめるな!」

空中で蹴りの体勢に入った理沙に向かって、仰向けになっている真由の目が光った。

「な!」

突然、突き上げるような衝撃を感じて、理沙は遥か上空にはね上げられた。

「ゴールド!」

その様子を見た九鬼が地を這うような低姿勢で、真由に向かって走り出した。

「あ、あたしは…空の女神だ!」

立ち上がった真由の口が開くと、突風が発生し、九鬼に向かって来る。

「は!」

スピードが上がった九鬼は、風よりも速くなり、突風を回避すると、真由の後ろに出現した。そして、捻りを加えた回し蹴りを放った。しかし、真由の首筋にヒットしたはずが、体を通り過ぎた。

「ざ、残像!」

唖然とする九鬼の後ろに、現れた真由の手刀が、背中に突き刺さった。

しかし、

「残像!?」

歯軋りにした真由の上空に、無数の九鬼が舞っていた。

「月影流星キック!」

そして、無数の蹴りが真由に向かって落下していく。

「馬鹿め!」

再び赤く光った真由の眼光が、九鬼の残像を消し去っていく。

すべてが一瞬で消えたが、肝心の本体がいない。

眉を寄せた真由の鳩尾に、目の前に現れた九鬼の正拳突きが決まった。

「無駄だ」

しかし、ダメージを受けたのは、九鬼の方だった。

激しい痛みを感じて、九鬼は咄嗟に後方にジャンプした。

距離を取りながら、九鬼はにやりと笑っている真由の表情に気付いていた。