「何だ?この感じは!?」

校舎内に入ろうとした九鬼は、爪先から脳天までを直撃するような恐怖を覚えた。

全身の細胞が、怯えている。

「いる…」

九鬼は、こんな自分の細胞に渇を入れるように、血が出る程に唇を噛み締めた。

「だが…行くのみだ」

九鬼は、全身を奮い起たせ、歩き出す。

もう怯えることはない。

覚悟を決めた。

どんな生物も、死がそばにあると感じれば逃げる。

生きるとは、いわば…逃げ続けてでも生きることを意味するのかもしれない。

食物連鎖の上位にいるものでもなければ、それは当然のことであろう。

九鬼のいた実世界では、人間が頂点にいた。

だからこそ、逃げることは臆病と言われた。

しかし、この世界は…人間が頂点ではない。

敵わぬ相手に、挑むことは勇気ではない。

無謀である。

(しかし!)

九鬼は、逆に全身の力を抜くように、体に命じた。

(それでも、守るべき人がいるならば…)

九鬼は歩き出す。

(無謀と言われようが、あたしは行く)

それは、勇気ではない。

九鬼という存在の宿命である。

背負った業である。

(あたしは…その為に存在している)

ただ戦うのみ。

前に進む九鬼を後押しするように、空に輝く月の光が増す。

光を遮る雲もない。

変身していないのに、九鬼の全身が淡く輝いた。

まるで、九鬼を守るように、ムーンエナジーが包んでいた。

(例え…闇の存在であろうと!あたしが、光の為の道を開こう)

九鬼の手が、いっそう輝いた。

(それが、闇夜の刃である。あたしの存在意義!)

その瞬間、九鬼は廊下を走り出した。