「犬上君をお願い!あなたも下がって!」

「わ、わかった」

打田が頷くと、九鬼は再び真由に向かって走り出した。




「何とか間に合ったでしょ?」

倒れていた理沙がふらつきながらも立ち上がると、そばに来た里奈の言葉に苦笑した。

「本当にぎりぎりよ。予定が早まったことは送信したはずよね?」

「あはは!」

笑って誤魔化そうとする里奈を、理沙は軽く睨んだ。

「例のものは?」

理沙の少し怒ったような言い方に、突然里奈は狼狽え出すと、あるものを差し出した。

「あっ、はい!」

「ありがとう」

それは、黄金の乙女ケースだった。

それを握り締めると、理沙は真由と戦う乙女ソルジャー達を見つめ、

「向こうへ帰る道が閉まる前に、早く帰った方がいい。そんなに時間がないはずよ。あとは、あたしと真弓で何とかするから」

歩き出した。

「でも、あの子…乙女シルバーになれていない」

里奈は、乙女ブラックとして戦っている九鬼を心配そうに見つめた。

「大丈夫よ!」

理沙は振り返り、里奈に笑いかけると、走り出した。

そして、戦っている乙女ソルジャー達に叫んだ。

「みんな!ありがとう!もう大丈夫だから!」

理沙が、真由と乙女ソルジャー達の間に立つと、攻撃は終わった。

砂埃だけが、草原に残った。

「撤収!」

里奈が叫ぶと、乙女ソルジャー達は急いで真由に背を向けて走り出した。

「九鬼!」

そして、森の中に戻る前に、彼女達は変身を解くと、次々に自分の乙女ケースを九鬼に向けた。

「あたし達の力を上げる!」

「またね!九鬼!今度は、この世界の観光スポットに行きたい!」

「だりぃな〜」

「あたしはもう来ません!」

「乙女ブラックは、あたしだけだ!」

各々に逃げながら、九鬼に別れの言葉を投げ掛けた。

「覚えておけ!お前を倒すのは、俺だ!」

加奈子だけが足を止めて、九鬼を指差した。

「ええ」

九鬼は頷いた。

「フン」

鼻を鳴らした後、加奈子は九鬼に背を向けて走り出した。