真由に睨まれた瞬間、十六の体にヒビが走り、風が全身を切り裂いた。

しかし、それでも…十六はにやりと笑った。

「?」

一瞬気付かなかったが、十六の腕がなかったのだ。

「最初から、我が身は捨て駒!」

日本刀を持った腕が二本、別の方向から真由の胸元を狙う。

「無駄だ!」

しかし、日本刀は真由には突き刺さらない。

「だから、無駄だ!」

真由は、胸を突き刺そうともがく腕には見向きもせずに、十六を再び睨み付けた。

サイボーグである十六の体のあちこちが砕け、ネジが落ちてきた。

「は!」

その一連の動きを見た理沙は、真由の胸を突き刺そうともがく二本の腕を掴み、力を貸した。

しかし、真由の皮膚の固さと、理沙の押す力に耐えきれずに、日本刀は真ん中から折れた。

「人間とは…存在も無駄だが…やることも無駄だな!」

真由は目を、理沙に向けた。

「きゃあ!」

数メートル後ろまでふっ飛ばされた理沙は、背中から地面に激突した。

「そう…無駄でもないさ」

後ろからの嘲るような十六の声に、真由は振り返った。

次の瞬間、真由は初めての悲鳴を上げた。

真由の顔に、十字の切り傷が刻まれたのだ。

「お前のように…油断が多かったら…九鬼真弓に、おれを刻めたものを」

腕がないはずの十字の肘から下に、刃が生えていた。

仕込みドスのように、体の中に刃を仕込んでいたのだ。

「ば、馬鹿め…」

十字はもう一度嘲るように笑うと、文字通りその場で崩れ落ちた。

足などが、体から離れ…まるで壊れた玩具のような姿に変わり果てた。

「き、貴様ら!」

真由は咆哮した。

その叫びに呼応して、真由の周りの空気が圧縮されて見えない槍になると、輝達に向けて放たれた。

空気である為、攻撃されたことも気付かずに、何かが突き刺さったような痛みだけを味わいながら、輝と打田は倒れた。

奇しくも、輝が盾になり、打田は致命傷を免れたが…全身の至るところを貫通した輝は、普通ならば…即死だった。