「ここは…」

一瞬にして、休憩所内にテレポートしたさやかは、ひんやりと冷たい空気に思わず身を震わせた。

「高坂?」

一緒にテレポートしたはずの高坂が、近くにいなかった。

休憩所内は、うっすらとしか明かりがついていない為に、すぐには見えなかったが、やがて目が慣れてくると、様子が伺えた。

「高坂!」

一番最初に、目が認識したのは高坂の後ろ姿だった。

そして、この向こうにある巨大な氷の塊。

その中で、血だらけになりながら、あの日のままで凍り付いている人間がいた。

「森田部長…」

高坂は、凍り付けの森田に頭を下げた。

「お久し振りです」

「…」

さやかはゆっくりと歩き出すと、高坂の横に立ち、森田の姿を見つめ、

「お兄ちゃん…」

と呟いた。

2人の間に、二年前の出来事が思い出される。

涙が流れたが、感傷に浸っている場合ではない。

高坂は涙を拭うと、氷の塊に近付いた。

「高坂!不用意に近付くな!」

さやかが、高坂の背中に叫んだ。そして、カードを取り出すと、

「この島は、魔法が使えない。だけど、この中では使える!」

テンキーにパスワードを打ち込んだ。

「ここで、この塊を海までテレポートさせる!それが、一番安全な方法だ」

「お、お前…それは」

高坂は、さやかが持っているカードが普段と違うことに気付いた。

「プロトタイプブラックカード」

「そうよ!山本さんに事情を説明して借りたのよ。このカードなら、直接魔力を使える」

さやかは、カードを氷の塊に向けた。

「待て」

さやかの腕を、高坂が掴んだ。

「そんなことはさせない!直接海に捨てるなんてさせるか!森田部長の思いを何だと思っているんだ!」

ぎゅっと握り締める高坂の手の強さも、さやかは気にせずに、

「お兄ちゃんはもう死んでいるわ!息を引き取る寸前に、コールドスリープをかけたけど…もう助かることはないのよ!」

何とかカードを向けようとした。