「…ところで、あやつはどうしておる?」

リンネが言うあやつとは、刈谷のことである。

「は!」

アイリは頭を下げながら、

「女神ソラと接触後、まだ島に留まっております」

報告した。

「人に手を出したのか?」

リンネは、訊いた。

「い、いえ…」

そこまでの報告を、刈谷から聞いてはいなかった。口ごもるアイリと違って、ユウリが言葉を続けた。

「あやつは、手を出しておりますん」

きっぱりと言い切ったユウリに、リンネは笑いながら問いかけた。

「何故そう思う」

リンネには、2人がそこまで刈谷から確認していないことはわかっていた。

だけど、敢えて訊いた。

心配気にちらりと、ユウリを見たアイリ。

しかし、ユウリは臆することなく、堂々と述べた。

「今のあやつは、人間。それも、とても人間らしい人間ですから」

「人間らしい人間?」

予想外の言葉に、リンネは眉を寄せた。

「は!偽善者ではなく、英雄でもなく…ただ、己に素直な人間。時に、人が見せる嘘偽りがございません。故に、あやつの周りにいる取るに足らない人間を、殺すことも守ることもしないでしょう」

ユウリは顔を上げ、

「互いに対して干渉しない…無関心でいることこそが、もっとも人間らしいと思います」

そこまで言うと、再び頭を下げた。

「フッ」

ユウリの言葉を聞いて、リンネは微笑んだ。

「…」

どういう反応が来るかわからないユウリとアイリは黙り込む。

「…やっぱり」

リンネは二人を見下ろし、

「人間の学校に行かせて、正解だったわ」

満足気に頷くと、

「とっても面白いことを言える女になったわね」

席を立った。

「リンネ様…」

「島の周りで、待機しなさい。いなくなったのがバレても、あたしが上手く言っておくわ」

そう言うと二人を追い越し、結界に入ろうとするリンネに、ユウリは体の向きを変えて口を開いた。