しばらく平穏だった島に、魔物達の興奮の声が響き渡った。

「血に興奮しているのか」

アルテミアは、三日月状の島の西部に来ていた。

合宿所がある港が一番北であるが、島の形から反対側の一番先の岬よりも、西部の奥が、一番南を向いていた。

その為とは言えないが、西部の緑は濃く、青々と茂った草木が熱帯ジャングルのような様相をていしていた。

そんなジャングルの中に、アルテミアはいた。

「チッ」

アルテミアは舌打ちした。

多くの人間が死んでいくのが、わかっていた。しかし、助けに行っても手遅れであることも。

バンパイアであるアルテミアは、血の匂いに魔物よりも敏感であるが…敏感であるが故に、手遅れであることもわかっていた。

それに…この場所から動くことが、さらに魔物を解き放つこともわかっていた。

本能に従順なはずの魔物達がなぜ、西部から動かないのか。

それは、彼らの本能が血の匂いに興奮するよりも、死に怯えているからだ。

アルテミアという死を与える存在に。

「どうする?」

移動することよりももっと重大なことに、アルテミアは悩んでいた。

いや、覚悟はしていた。最悪の結果が訪れることに。

(やれるか?)

アルテミアは、頭の中でシミュレーションを行っていた。

来るべき…魔王ライとの戦いに備えて。




「血の匂いが充満している。それだけではない。運命の速度も加速している」

程なくして夜を迎えた島の中で、1人力を蓄えていた理沙は…空に浮かんだ月を結界ごしに見上げた。

「やはり…もう始まるのか」

あと6日あると思っていた理沙は、下唇を噛み締めた。

女神として最大の力を発揮する為に、月の力を集めていた理沙は、フルパワーまでチャージできないことを悟った。

(このままでは…勝てない)

女神であるはずの理沙の額から、汗が流れた。

(だけど)

理沙は上空の月を睨むと、覚悟を決めた。

(そう都合よくいくはずがない)

両手を月に突きだすと、

「我が分身である月よ!すべてに平等に降り注ぐ月の光よ。今宵だけは…少しだけ我に強く降り注いでおくれ」

その光を集め出した。