「おい!どうして、あのままにした!やつは、我らを愚弄したのだぞ!」

追い付いたアイリの言葉に、ユウリは鼻で笑った後、

「確かに」

それだけ言うと、歩く速度を速めた。

「ユウリ!」

アイリが再び後を追おうとした瞬間、横合いから茂みを破って虎に似た魔物が飛び出してきた。

しかし、ユウリの真上に来ると一瞬で、灰になった。

何事もなかったように歩くユウリの横に来たアイリは、ちらっと顔を見た。自分と同じ顔であるが…物凄く恐ろしく見えた。

機嫌が悪いことを感じ取ったアイリは、空気を読んで口を詰むんだ。

その瞬間、軽く口元を緩めたアイリは前を睨みながら、口を開いた。

「しかし…やつのリンネ様への忠誠心は、本物。その為には、人間にもなりきるくらいにな」

「!?」

アイリは眉を寄せた後、

「あっ」

思い出した。

「フッ」

ユウリは笑った。

「あいつか」

アイリは納得した。

「滑稽ではあるが…あそこまでやれば、大したものだ」

と言いながらも、ユウリはどこか刈谷を哀れに思い始めていた。




「この身はすべて…あのお方のもの」

刈谷は、ユウリ達とは逆の方向に歩きながら、眼鏡を人差し指で上げた。

魔神である刈谷が、大月学園の生徒になる為に、参考にした人間がいた。

幾多流である。

リンネに気に入られている人間。

刈谷は、リンネに気に入られる為ではなく…いずれ、人間である幾多は、リンネのもとから離れると思っていた。それが、自ら離れるのか、殺されるかはわからない。

その時に、リンネが寂しがらないように、同じようなものがいた方がいいと…刈谷は思っていたのだ。

「我は…リンネ様のナイト」

刈谷は足を止め、合宿所の方に頭を下げた。

「あなたが望むならば…我が身でさえ、燃え尽きてみせましょう」

そして、改めて自らの決意を強く誓った。