「一体…何だと言うのよ」

加奈子の攻撃から何とか逃れた刹那は、次の獲物を求めて校舎内をさ迷っていた。

両腕がないまま、学校を出る訳にはいかなかった。

「まだ部活で、残っている人間がいるはず!」

腕がもがれたのに、血一つ流れない体で走り回る。

「こんなところで!こんなところで…死ぬ訳にはいかない!」

刹那の叫びに、廊下の窓ガラスに映る刹那がにやりと笑った。

「そもそも…生きているのかしらね」

嘲るように言ったその声も、刹那には聞こえない。

ただ人間を求めて、走り回る。

血走った目からも、赤の色が消えていく。

「誰か!誰か!いないの?」

刹那の悲痛な叫びに、廊下の影から1人の女生徒が姿を見せた。

「に、人間!」

刹那は嬉しさに目を輝かせ、もう装うこともなく、本性を剥き出しにした。

鋭い牙が生え、姿を見せた女生徒に襲いかかる。


「フン」

姿を見せた女生徒は、襲いかかる刹那に気付いても、微動だにせず、ただ鼻を鳴らした。

「愚かな…生き物…」

呟くようにそう言うと、女生徒は眼鏡を外した。

牛乳の底のような分厚いレンズをした眼鏡を外した瞬間、生徒の姿が変わる。

背が伸び、髪はブロンドに変わる。

「何!?」

その姿を見た鏡の中の刹那が、絶句した。

「ま、まさか…」

女生徒を指差し、鏡の中で足を止めた刹那と違い、廊下にいる刹那はただ、新しい腕を求めて襲いかかる。

「試してみるか」

女生徒は、刹那に向けて何かを突きだした。

それは、白い乙女ケース。

「モード・チェンジ!」

女生徒が叫ぶ。

「ジャック・ザ・ムーン!」

乙女ケースが開き、白い光が女生徒を包んだ。

「何!」

光が放たれると同時に、刹那の後ろに姿を見せた加奈子は、目を見開いた。

「純白の乙女ソルジャー…」