「ふう〜」

その頃、女子が休む区間をこえて、反対側の空間に着いたさやかは木の幹にもたれ、息を吐いた。

「まさか…こんなことになるなんて」

さやかと九鬼がいる場所の内壁は、スクリーンの役目をしており、木の周囲の様子を絶えず映していた。

さやかは、スクリーンを見つめながら、目を細めた。

合宿所の方向から始まった忍者と魔物の戦いはまだ、続いているようで、遠くから火花が見えた。

「高坂達は大丈夫かな?まあ…梨々香も輝も本気を出せば、その辺の魔物にはやられないだろうがな」

そう言った後、さやかはフッと笑い、

「問題は…どうやって、あれをあそこから移動させるかだ」

改めてため息をついた。

「できれば…やりたくないが、誰かの手に落ちたら大変なことになる」

そして、目を瞑った。




(さやか…)

さやかの脳裏に、記憶がよみがえる。

(拓真お兄ちゃん!)

(俺を殺せ!そして、この体ごと…海へ捨てろ!)

それが、島で見つけた森田拓真の最後の言葉だった。

兄のように慕っていた森田の言うことを、さやかは守らなかったことはなかった。

しかし…。

(そんなことできるか!部長は、完全に死んではいないんだ!)

さやかの後ろに、高坂がいた。

(高坂…)

泣き崩れる高坂の姿を見た時…さやかは初めて、森田の言うことをきかなかった。

そして、2人は森田の体を、最大の広さを誇る休憩所内に封印したのだ。

(あの時、せめて…入り口を破壊していたら)

とさやかが悔やんでみても、仕方がないことだった。

(持ち出せないならば…結界の入口破壊くらいはしなければ)

さやかが、そう誓っている頃…高坂達も同じような小屋を発見していた。

そして、同じように見張りになりながら、高坂も考えていた。

「森田部長…」

高坂は内ポケットから、乙女ケースを取り出すと、その表面を見つめながら、

「今なら…できそうです。すべてを背負うことを!あなたが抱え込んだものも…今度こそは」

ぎゅっと握り締めた。