「ひいい!」

その様子を見て、百合花は逃げようとした。

しかし、足がもつれ、転倒してしまった。

そんな百合花に、真由はゆっくりと近付いて来る。

「ど、どうして!わたしは、何もしていないのに!何もしていないのに!いじめてもいないのに!」

泣き叫ぶ百合花に、少し興醒めたように欠伸をした真由。

「わたしは…ただ…」

「ただ…何かしら?」

欠伸をした後、真由が訊いた。

「いじめてなんていない!ただ…知っていただけ」

「そうね〜。そうかもしれないわね」

真由は、百合花に微笑むと、

「あたしもあなたと同じよ」

手刀を振りかぶった。

「ひいい」

何とか立ち上がり、走りだそうとした百合花は、後ろにいた刈谷とぶつかった。

「きゃ」

悲鳴を上げ、再び転んだ百合花は、腕を組んで立つ刈谷に叫んだ。

「助けて!」

その叫びに、刈谷は百合花を見ることなく、ただ冷静に言い放った。

「それは…無理だな。君は、助けたかい?ただ見てただけだろ」

「え」

涙を流していた百合花の顔が、凍り付く。

「見てるだけだった君が、今度は助けを求めるのかい?」

刈谷は、ずれてきた眼鏡を人差し指で上げると、

「それは虫が良すぎるよ」

最後にちらっと見ると、絶望的な言葉を投げつけた。

「それに、僕は平和主義者なんだ。争いに巻き込まないでくれたまえ」

「話は終わったかしら?」

真由は、百合花の後ろで笑った。

「こういう話は、決着がつかないものよ。相手が死ぬ以外はね」

「た、助けて…誰か」

それが、百合花の最後の言葉になった。

崩れ落ちた百合花を挟んで、真由と刈谷は見つめ合う。

数秒後、刈谷は跪いた。

「お初にお目にかかります。女神ソラよ」

その様子に、ソラは鼻を鳴らし、刈谷を見下ろした。

「やはり…貴様は、リンネの手の者か」

「は!」

刈谷は、再び頭を下げると、

「リンネ様より、ソラ様の完全なる復活の為に尽くせと命じられております」