「あなたは?」

大袈裟にびくっと身を震わせた百合花とは違い、刈谷は冷静に、姿を見せた人物を頭の中で確認していた。

「君は確か…一年の高木君」

顎に手を当て、少し考え込むポーズだけを取る刈谷の言葉を聞いて、後ろにいた4人がざわめいた。

「高木…」
「まさか!」
「摩耶の妹…」
「そう言われれば…そっくりだな」

ひそひそ話す4人の声に、ボロボロになった制服を着て、俯きがちの真由は微かに唇を震わせた。

「高木…さん!?」

その名字を聞いて、百合花ははっとした。

(あの…自殺した)

百合花と摩耶は、同じクラスだった。

だけど…百合花は、摩耶の顔を覚えていなかった。

いや…違う。

忘れたのだ。

同じクラスであったとしても、摩耶は見てはいけないもの…近付いてはいけないものだった。

友達と思われてはいけない。仲間と思われてはいけない。

可哀想と思いながらも、百合花は距離を取り、顔を合わすことはなかった。

なぜならば…百合花は、平和主義者だからだ。

学校から離れれば、いじめはいけないと友達に言えた。

絶対に、あってはならないと主張することもできた。

だけど、現実は…。

今もまた…摩耶そっくりの真由から距離を取ろうと、後ずさっていた。

「へえ〜」
「妹か」
「そうか…」
「ああ…」

4人の内、女は3人。

そして、百合花は知っていた。

摩耶を苛めていたのは…その3人だと…。

規律を重んじる大月学園で、暴力によるいじめはなかった。

だからこそ、陰険になるのだ。

そして、今…目の前に立つ真由の姿は、ボロボロであり…かつての摩耶と重なった。

彼女達も、摩耶が死んだと聞いた時は…多少なりとも罪悪感を感じていた。

しかし、摩耶にそっくりである真由を見て、その罪悪感は消えた。

いや…普段の環境にいたならば、消えることはなかっただろう。

安全を求め、逃げ回っているとはいえ…魔物がいる極限状態の危険な場所にいた。