「ご、ごめんなさい」

罪悪感から、思わず腕を引っ込めようとしたが、物凄い力が、輝の動きを止めた。

「べ、別に、へ、変なことを」

しどろもどろになる輝を、下から真由はじっと見つめ、おもむろに口を開いた。

「あなたは…どうして、このままでいる?本能を解放すればいい。そうすれば…人間なんて恐れることはないのに」

「え」

輝は、引く力を止めた。

「人間以上の存在になれるのに」

輝の目を見つめながら、上半身を上げた真由。

普段の輝ならば、それでも真由のはだけた胸元に目が行くのだが…今回は、そんな余裕もない。

「君は…」

輝は、真由の瞳の中に恐ろしいものを感じた。だけど、さらにその奥に、悲しいものがあるような気がした。

そのことが、罪悪感をこえて恐怖を覚え始めているはずの輝に、本人も予想できない台詞を吐き出させた。

「泣いてるか…」

しばらくの間を開けてから、真由は目を見開くと、立ち上がった。

「な、何を!」

自ら口にした言葉に驚きながらも、今度は逆に見上げることになった輝は、ただじっと…真由の瞳から視線を外せなくなっていた。

「な、何を馬鹿なことを!」

予想以上に狼狽え出した真由は、輝を睨んだ。

「この私が、どうして泣く!」

その叫んだ真由の雰囲気が、変わった。

輝の全身の毛が逆立つと、無意識に後ろに飛んだ。

壁に背中をつけ、距離を取った輝。

「な、何だ?」

それでも、心が落ち着かなかった。輝の中の犬神が、危険を告げていた。

「あたしが、どうして!」

真由が右手を振り上げた瞬間、

「どうかしたのかい?」

その腕を後ろから掴む相手がいた。

高坂である。

「部長!」

輝が喜びの声を上げた。

休憩所に戻って来たのは、高坂だけではなかった。

戦い終わった梨々香や十六、打田も魔法陣から出てきた。

「何があった?」

高坂の言葉に、真由は腕を振り払うと、魔法陣に向けて走り出した。