「ハハハハハハ!」

加奈子の笑いは止まらない。

逆に、九鬼の蹴りは途中で止まった。

「お前の力で、勝てるとは思わないが!お前は安心しているのだ!テラと戦わなくてよかったことをな!」


目を見開いたまま、止まった九鬼の足が…地面に落ちた。

「この世界に、敵を討ちに来たと言っているが、違う!逃げて来たのだよ。テラと向き合わなかった自分からな!」

加奈子は、九鬼に体を近付けると、口を耳に近付け、囁くように言った。

「偽善者が」


「!」

目を見開いたまま動けない九鬼の横を通りすぎると、

「ハハハハハハ!」

笑いながら、加奈子は正門の方へ歩き出した。




遠ざかっていく笑い声を聞きながら、ゆっくりと九鬼は崩れ落ちた。

変身が解けると、地面に倒れたまま…しばらく、動けなくなった。


(そうなのか?)

自分でも気づいていなかったが…これ程のショックを受けるとは、加奈子の言葉を認めているようなものだ。


確かに、綾子の仇をうつと言いながら、アルテミアを探しにも行っていない。

一度対峙した時、まったく敵わなかったとはいえ…しつこく戦うのが、九鬼真弓だったはずだ。

(あたしは…逃げているのか?)

変身が解かれ、手の中にある…黒い乙女ケース。

(こんなあたしだから…闇を拭えないのか?)

乙女ケースを握りしめようとしたが、力が入らなかった。

(畜生…)



倒れたまま、動けない九鬼を見ている者がいた。

月の下、地面の遥か上で…九鬼と加奈子の戦いを無表情で見ていたのは、アルテミアだった。

アルテミアはただ無言で、腕を組んだまま…九鬼を見つめ続けた。