「結界が強いのか?」

アイリが眉を寄せた。

「いや…もっと強力なやつだよ」

そこまで言うと、幾多はユウリとアイリの横を通り過ぎた。

「…」

ユウリとアイリは、幾多の言葉を追及しなかった。

「あっ!それと」

思い出したように、足を止めた幾多は、振り返り、

「式神は、借りておいていいんだよね」

2人の背中に訊いた。

「それは…リンネ様がお前に与えたものだ」

ユウリは、前を向いたまま答え、

「それに…そいつがいれば、リンネ様からの連絡がとりやすいからな」

アイリが目を細めた。

「まあ〜監視されているようで嫌だけど…命が大切だからね。了解したよ」

幾多はそう言うと、再び歩き出した。

幾多の足音が聞こえなくなった時、アイリが笑いながら言った。

「所詮…あいつは、単なる使い捨て。人間の動きを探る密偵に過ぎない」

「…」

ユウリは何も言わない。

「どうした?」

アイリは、いつもと様子が違うユウリに気付き、横に目をやった。

「…」

またしばらく無言であったが、ユウリはゆっくりと口を開いた。

「何でもない」

この返事に、今度はアイリが無言となった。




合宿所に向かって歩く幾多は、ふと足を止めた。

「そう言えば〜真と約束したんだっけ…ここで会おうって」

幾多は腕を組み、

「どうしたものかな?」

悩み出した時、前方の茂みの向こうから声が聞こえてきた。


「大丈夫かな…部長」

輝達は無事に、湖に着くことができた。

あれほど周囲に感じた魔物の気配が、地震の後…まったく感じなくなっていた。

まるで、どうなるのか…なりを潜めて様子を伺っているように思えた。

そのことが幸いし、輝達は無事に湖に着くことができたのだ。

「それにしても…静かね。逆に不気味だわ」

打田は、湖の向こう岸を見た。

思ったより、湖は広く…向こう岸に人がいたとしても、豆粒くらいにしか見えないだろう。

「一応、気をつけて下さいね」

梨々香は、銃を周囲に向けて、様子を伺う。