「やれやれ…」

ことの顛末を見る気もせずに、幾多は森の中を歩いていた。

「偽りの親子に…偽りの姿。それでも、あそこまで真剣だと、滑稽を通り越して…感動すら覚えるよ。彼らの愚かさにね」

幾多は、誰もいない空間で肩をすくめて見せた。

その時頭上から、虎に似た魔物が襲いかかってきた。

「フン…」

幾多は軽く、鼻を鳴らした。

魔物は空中で、どこからか出現した女に蹴り落とされて、幾多の前に転がった。

「やれやれ…どうしたものかな」

そして、すぐに燃え上がる魔物を見ずに、そばに立つフレアの姿をした式神を見つめた。

「式神は、何体も予備があるけど…もうこの姿には、意味がなくなったしな」

フレアは、魔物を倒すとそのまま…姿を消した。

幾多は頭をかくと、

「それに、もうこの島にいる意味もなくなったな」

後ろを振り返り、

「もうすぐ…彼は、よみがえる。その時、今日のことを訊いてみようかな?」

にやりと笑った。



「いけない子ね」

食堂で待機していたリンネは、離れていても幾多の行動を把握していた。

「でも…」

人間を気取って、インスタントの紅茶を飲んでいたリンネは、カップをテーブルに置いた。

「許してあげるわ。ここからは、とても危険な場所になるから」

クスッと笑うと、リンネはテーブルに頬杖をついた。




「…でも、先生は許してくれるよね。きちんと、例のものを確認してきたからさ」

幾多は、学生服のズボンに両手を突っ込むと、無防備に歩き出した。

「そうか…あったのか」

突然、幾多の前に、ユウリとアイリが現れた。

「ああ…あったよ」

彼女達も、パーティーに参加しているはずだが、他のメンバーはいなかった。

「ご苦労だったな」

ユウリの言葉に、幾多は肩をすくめ、

「大したことはないよ。本当は、それを奪うつもりだったんだけど…強力な結界が張られていたからね」

ため息をついた。