「梅…いいんだよ。お前は、ここで傷ついた人達の世話をする為に、いるんだから」

石段を登り、人が近づいてくる気配を感じ、高坂は立ち上がった。

すると、扉が開き、前田とさやかが中に入って来た。

「相変わらず…一人早いな」

顔をしかめた前田に、

「先生が、遅いんですよ」

高坂はふっと笑った。

「クッ!」

前田のこめかみに血管が浮かんだが、高坂は気にせずに、他の事を考えていた。

(あいつに…魔力?)

高坂の脳裏に、小馬鹿にしたような笑いを浮かべる幾多の顔が浮かんだ。





その頃…合宿所からそんなに離れていない海沿いの崖にいた幾多流は、結界の向こうで外壁をへこましながらも、海中を進んで行く潜水艦の影を見下ろしていた。

「さすが…頑丈だな」

感心したように頷いた後、結界の外で、三たび攻撃をしょうとしているものに、声をかけた。

「もういいよ。単なる歓迎の花火だから」

幾多の言葉に、先程よりも遥かに強力な力を放とうとしたものは、攻撃を止めた。

その時、幾多の後ろの茂みからサーベルタイガーに似た魔物が、飛び出して来た。

その動きに、振り向くより速く幾多は、腰のベルトに突っ込んでいた銃を向けた。

銃声が轟き、サーベルタイガーの眉間にヒットした。

しかし、それでも魔物の勢いは止まらず、幾多に向かってくる。

「やれやれ…」

銃を下ろすと、肩をすくめた幾多の瞳に、影が横切った。

「無駄玉を使ってしまったよ」

結界を一瞬で越えて、幾多の横を通り過ぎたものの膝蹴りが、サーベルタイガーの顔に叩き込まれた。

「お前がいたのにね」

幾多は、自分の前に着地したものの背中に微笑みかけた。

蹴りを喰らったサーベルタイガーは、ふっ飛びながら体中の穴から炎を噴き出し、燃え始めた。

そして、地面につく頃には燃え尽きていた。

「素晴らしいよ」

幾多は拍手した。

その拍手の中、ゆっくりと振り返った…その姿は。

幾多は、うっとりとした目で、そのものを見つめながら、名前を口にした。

「僕のフレア」