加奈子は、そんな九鬼の姿ににやりと笑った。

乙女ブラックの特質であるスピードを、九鬼はあまり使わない。

スピードで翻弄する時は、相手が余程の飛び道具や光線を使う場合などが多かった。

素手や刀などの接近戦を挑む時は、九鬼は素手で迎えうった。

基本的に武器も使わない。

なぜならば、彼女は闇夜の刃。

鍛えた己の体が、武器だからだ。


「真弓!」

真っ直ぐに、喉元に狙いをつけた包丁の先を見るのではなく、九鬼は加奈子の肩の動きに、注目していた。

「は!」

気合いとともに肩を入れ、腕を伸ばしてくる加奈子の動きに呼応して、九鬼は少し首を横にスライドした。

耳元に、空気を切り裂く包丁の音がした。

九鬼は反転すると、加奈子に背中をつけ、突きだされた腕を掴み、一本背負いに持っていく。

「舐めるな!」

突然、加奈子は変身を解いた。

と同時に、加奈子の背中から黒い羽が生え、空中に浮かび上がった。

「何!?」

一本背負いの体勢のまま、九鬼は地面が足から離れていくのを見た。

「チッ」

舌打ちすると、九鬼は加奈子の腕を離し、地面へと着地して、そのままジャンプした。

九鬼の着地した地点に、鋭い鞭のようなものが突き刺さった。

「こ、これは!?」

少し距離を取った九鬼が、空を見上げた。

「何を驚いている」

空中に浮かぶ加奈子の背中から、身長の五倍はある羽が生え、地面に突き刺さっているのは、尻尾だった。

「加奈子…。その姿は!?」

唖然とする九鬼を見下ろしながら、加奈子は笑った。

「何を驚いている?お前も、薄々…感づいていたはずだ」

加奈子の言葉に、九鬼は唇を噛み締めた。

「そうだ!その通りだ!」

九鬼の険しい表情を見て、加奈子は尻尾を地面から抜いた。

「魔獣因子…」

九鬼はその言葉を口にした後、思わず加奈子から目をそらした。