その素直な問いに、老婆はこたえた。

「わたくしは、森田拓真様にお仕えする式神。拓真様の命により、この島に、流れ着いた方を死なせないようにしております」

「森田拓真!?」

幾多は、少しだけ考え込んだ後、にやりと笑った。

老婆は頭を下げ、

「この島は、危険でございます。この建物が、結界の入り口となり、魔物が外に出るのを防いでおります。しかし、結界は防御を強くした為に、不安定になっております。こちらから、結界の中に入れますが、向こうから戻ることはできません」

「なるほどね」

幾多は頷いた。

「出入りできるのは、この建物の裏口だけでございます。それも、結界を開ける鍵は、大月学園にしかございません。その為、間違って入ってしまった場合…大月学園から取り寄せるのに…え!」

話の途中で、老婆は目を丸くした。

いつのまにか、老婆を追い越した幾多の体が、結界内に半分埋まっていたのだ。

「あ、あのお〜お、お客様!」

狼狽する老婆に、幾多はウインクをし、

「あとから来る保険の先生に、伝えておいて下さい。少し散歩にいってきますと」

そのまま結界を通り過ぎた。

「ひ、ひえ〜」

老婆の悲鳴が、最後に耳に飛び込んで来た。

「さてと…」

ひんやりしていた結界の外と違い、いきなり汗ばむような湿気の多さに、苛立つどころか…幾多は楽しくなってきた。

目の前に広がるジャングルを見つめ、

「さっきの会話で、わかったことはもう一つある!森田拓真は、死んではいない。生きてはいないが…死んではいないはずだ。今の式神が存在できているならば、命はある!そして、彼は…この島のどこかにいる!」

ゆっくりと歩き出した。

「やはり〜異世界は面白いな」

幾多は、学生服のズボンのポケットに両手を突っ込むと、臆することなく、ジャングル内に入っていた。

昼間なのに、薄暗い空間も…幾多には心地良かった。

「真!先に行くよ。彼が守っているものは、俺が先に頂くかもよ。まあ〜それが、何かは知らないけどさ」