「生身の蹴りが、効くと思ったか!」

加奈子は九鬼の足を取ると、校舎の壁に向けて投げた。

壁に激突する寸前、九鬼は叫んだ。

「装着!」

黒い光が九鬼を包んだ。

装着の瞬間装着者を守る為に、黒い光は結界の役目をおう。

校舎の壁を少し抉る光がクッションの代わりになり、九鬼は壁に激突しなかった。

それどころか....乙女ブラックになった九鬼は、投げられた反動を利用して壁を蹴ると回転し、加奈子に向って足を突き出した。

「ルナテックキック零式!」

真っ直ぐに突き出された足が、加奈子の胸元にヒットした。

その間、ほんの数秒。

「ぐわあ!」

ふっ飛んだ加奈子とほぼ同時に、地面に着地した九鬼は、刹那がいた方を見た。

「いない?」

九鬼は、襲われていた生徒が刹那だと知らない。

ただ校舎のガラスが大量に割れる音を聞き、慌ててここに来たのだ。

それに、刹那は窓のそば...ほぼ真下にいた為、廊下を走って来た九鬼からは死角になった。

見えたのは、誰かに襲いかかっている加奈子の姿だけだった。

窓から飛び込み、加奈子に蹴りをいれる寸前.....横目で、踞っている生徒の姿を捉えていたが、後ろ姿であり、制服ということで特定はできなかった。

(一瞬で、消えただと!?)

九鬼には、見失ったことが信じられなかったが.....捜索している余裕はなかった。


「真弓!」

声が聞こえた瞬間、九鬼は地を這うように低空でジャンプした。

その真上を、大鎌の刃が通り過ぎた。

あらゆる刃物を召還できる。

それが、オリジナル乙女ソルジャーである乙女パープルの能力だった。

「く!」

今度は、ナイフが九鬼の着地地点を予測して、地面に突き刺さる。

しかし、九鬼が着地したのは、予測地点より遥か向こうだった。

「やるな」

加奈子は笑った。

乙女ブラックの特質である速さで、九鬼はなんと、空中で加速したのだ。

「乙女ブラック....。異世界でも健在だな」

加奈子は大鎌を捨て、包丁を召還した。

そして、九鬼に向って突進して来た。

九鬼は逃げずに、その場で構えた。