無防備な真由に、いろんな思いを巡らしながら、パンを食べていると、少し喉が詰まった。ジュースを取り出そうとしたが、一個しか買っていないことに気付いた。

(チッ!しまった)

心の中で舌打ちしていると、バスの中に誰かが戻ってきた。

「高木さん!やっぱり、何か食べた方が…」

車内に姿を見せたのは、輝だった。

「ぶ、部長!?」

驚きの声を上げる輝に、高坂はフッと笑うと立ち上がり、輝に向かって歩き出した。

そして、残りのパンを輝に押し付けると、その代わりに輝が買って来た二つのコーヒー牛乳の内一つを手に取った。

そのまま高坂は無言で、バスを降りた。隣のバスに向かいながら、高坂はコーヒー牛乳にストーローを突っ込み、一気に飲み干した。

「危なかった…」

高坂は、額に流れた冷や汗を拭った。

ぎりぎりだった。

喉が詰まって、死にそうになっていたのだ。

「ふ、二つ…買うべきだった」

高坂はずっと、後悔していたのだ。



「何しに来たんだ」

必要以上に増えたパンを見つめながら、輝は首を捻った。

「あなた達は…お節介ね」

真由は、受け取ったジュースを飲む見つめながら、輝の方を見ずに言った。

「え」

輝は思わず、真由の方を見た。前を向いている真由の横顔は、やっぱり…人形のようだ。

そんな印象を否定するように、真由は輝の方に顔を向けると、キッと睨んだ。

「だけど…それも、自己満足なだけ…」

「う、うう…」

輝は持ってきたパンと押し付けられたパンを見て、頭を垂れた。

何も言えなくなって、通路に立ち尽くす。

「誤魔化しはいらないわ」

真由は突然席を立つと、輝の横を通って、外へと出た。

まだ休憩時間があるからか…バスの近くには人はいなかった。

高坂も、隣のバスに乗り込んでいた。

外に出た真由は、食堂に向かうでもなく、バスから離れようとした。

その時後ろから、声がした。

「自己満足ねえ〜。それでも、他人の為に何かをする人間は、ましな方だと思うけど」