その頃、バスへと1人戻った高坂は、恥ずかしさからか…乗るバスを間違えた。

乗り込んでから、真由の姿を見つけ、慌てて出ようとしたが、階段を一段降りて踏み止まった。

「高木くん…」

高坂は再び、バス内に戻ると、

「君は、何か食べないのかい?まだ目的地に着くには、時間がある。途中で、お腹が空くぞ」

そう言いながら、バスの通路を通り、真由の横まで来た。

そして、真由を見下ろしながら、

「よければ、どう?買いすぎたからね」

パンが入った袋を差し出した。

真由はバスにもたれながら、高坂を見上げ、

「いただきます」

選ぶことなく、袋からパンを一個取り出した。

高坂は、通路を挟んで反対側の席の肘掛けに腰掛けると、無造作にパンを一個掴んだ。

(今回の合宿は危険だ)

話す内容を頭の中で考えるが、どれもしっくり来ない。自殺した彼女の姉の話をしても仕方がない。

いろいろ考えていても、言葉がでない。

「…」

こういう時は、情報倶楽部部長失格だと思ってしまう。

(森田部長ならば…上手く話を聞き出せるんだろうが…)

大月学園以前の記憶が、皆無に近い高坂。だからこそ、普段は大胆に行こうと心がけていた。

失敗も経験である。人よりも進んで何かをやらなければ…経験を積むことができない。

先代である森田拓真は、高坂とは違い…もの静かな性格で、見た目は女のようだった。彼は、1人で情報倶楽部を運営していた。

そんな森田は、高坂を部員として迎え入れたのだ。


(真…)

高坂の脳裏に憂いを含んだ瞳を向ける森田の横顔が、よみがえる。

(無理矢理話すことはないよ。無言だって、会話の一つになることがあるんだから)

高坂は息を吐くと、袋の中にあるジュースに気付いた。フッと笑うと、それを真由に差し出した。

「パンを食べるのに、水気がないとな」

真由は、その言葉にクスッと笑い、

「そうですね」

ジュースを受け取った。

その時のあどけない真由の表情に、さっきまでとは別人のように思えた。

(この表情が、本当の彼女か?…いや、安易には決められない)

高坂は真由を見つめた。