「それにしても…」

さやかは、食堂の奥に座るユウリとアイリに気付き、

「人間以外もいるわね」

改めて、この合宿の前途が不安になってきた。

関所の近くを考慮して、いつでも撤去できるように折り畳みの机とパイプ席が並んだ食堂は、殺風景だが…少し緊張を解いてくれていた。

ユウリやアイリから仕掛けてくる気配は、なかった。

(それにしても…どんな基準で選んだのか)

さやかが少しため息ついた時、

「お待たせしました!」

うどんとおにぎりを乗せたお盆を2つ持って、梨々香が現れた。さやかの前に置くと、隣に座った。

その行動を見て、輝ははっとした。自分と緑の前を見た後、慌てて注文する為に、右手に広がるカウンターに向かって走り出した。

「やっと気付いたか」

緑は、何もない自分のテーブルに頬杖をついた。

前の2人は、ずるずるとうどんをすすっていた。

「いただきます!」

カツ丼だけを持って帰って来た輝に、緑がキレた。

「自分の分だけかよ!」

「あ、当たり前でしょ!おごる金はないですから」

キレた緑よりも、カツ丼が気になる輝は、殴られる前に、胃の中にかきこむ作戦に出た。

「チッ」

しかし、緑は席を立つと、輝の相手するよりも、カウンターに走った。

腹が減っては、戦ができぬというやつである。

時間もないし、輝を叱る前に買いに行ったのである。

「ご馳走さまでした」

一気にかきこむと、緑が戻る前に、食堂を出ようとする輝に、さやかが訊いた。

「高木さんは、どうした?」

「バスの中ですよ。何でも、食欲がないからと…」

輝の言葉に、さやかは眉を寄せ、

「何か食べておかないと、いざというときに、力がでないぞ」

箸を持つ手を止めた。

「そうですよね」

おにぎりを頬張りながら、梨々香が頷いた。

「わ、わかりました!何か買って行きます!」

輝はさやかに頭を下げると、お盆に空になった丼を置くと手に持ち、慌てて走り出した。