「フン!」

無意味に鼻を鳴らすと、加奈子は空を見上げた。

誰もいない屋上。

下校時間を過ぎた学校で、月を見つめていた。

「この世界にも、月があるのか…」

実世界と変わらない月を見つめながら、加奈子は呟いた。

「そして…」

加奈子は視線を、人のテリトリーである市街地の遥か向こうを睨んだ。

「魔物がいる世界…」

遠くに翼を広げて、飛び去っていく小型の竜の群れが見えた。


「ここが…ブルーワールド」

加奈子の全身に震えが、走った。

「ここならば…おれは、普通に住めるのか?」

加奈子は、ゆっくりと歩き出した。

そして、屋上を囲むフェンスに手をかけると、一気に飛び降りた。


「な!」

校舎と校舎の間にある庭園に、着地した加奈子。

その様子を目撃した生徒がいた。

「あ、あなたは?」

横合いから声をかけられて、加奈子は目撃した生徒を横目で睨んだ。

「お前か」

加奈子は、にやりと笑った。

庭園に植えられた花々を踏みつけながら、加奈子は生徒に近付いていく。


「チッ」

目撃した生徒は、舌打ちした。

そこには、怯えがなく…ただ邪魔くさそうに、加奈子を見つめ、

「今は間に合っているんだが…」

攻撃体勢に入ろうとした瞬間、

「何!」

生徒の右腕が、飛んだ。

「見せてみろ。貴様の本性を!」

加奈子は、にやりと笑った。

「お、お前は何者だ!」

腕をもがれても、生徒から血は流れなかった。

転がった腕は、黒く変色していく。

「成る程な」

鞭のように長くなった腕が、残りの腕も切り裂いた。

やはり、血は流れなかった。

それを確認すると、加奈子の腕はもとに戻った。


その様子を見て、生徒は目を見開いた。

「お前…人間ではないのか!?」

「どうだろうな…」

加奈子はフッと笑うと、スカートの中から乙女ケースを取り出した。

「装着!」

紫の光が、加奈子を包んだ。