「我が名は…イオナ。人は、我を月の女神と呼ぶ」

「月の…女神!?」

高坂はその言葉に、絶句した。しかし、どこか納得していた。

その美しさは、女神という名に相応しい。

イオナは、高坂を見つめ、

「我とあの方の子孫よ。愛しき…人間よ。お前の願いを聞いてやるように、我は言われた。愛しき人にな」

「愛しき人?」

高坂は、眉を寄せた。

イオナはただ…微笑み、

「ブルーワールドへ送ってやることは、可能だ。しかし、ただの人間であるお前では、堪えられまいて」

その後、睫毛を落とした。

「ど、どういう意味だ?」

「…」

イオナは無言になり、しばらく月を見上げた。

そして、一度目を瞑ってから、高坂の方を向いた。

「我に…以前と同じ力はない。さらに…今の我は、完全に目覚めていない」

イオナは自分の手に、目を落とし、

「我が、行くことには…問題はない。人間以上の肉体を持っている者も…堪えられるだろう」

拳を握り締めた後、顔を上げ、高坂を見た。

「お前は、普通の人間…。せめて、今の我が目覚めておれば…ブルーワールドまでの空間を開けた道を作ってやれるのだが…それは、叶わぬ」

そして、屋上から学園を見回し、

「この学園は、ブルーワールドの学園と繋がっておる。しかし、世界間の行き来はできぬ。だが…数十年に一度、偶然繋がることがある。その綻びからなら…負担がかからない」

「それは、いつ繋がる?」

「わからない。なぜならば…それは、あってはならないことだから」

イオナは首を横に振った。

「じゃあ…待てない」

高坂はイナオに近付き、

「何があっても構わない!例え…この体が壊れても」

自らの肩を掴み、小刻みに震えながら握り締めた。

そんな高坂に、イナオは言った。

「壊れるのは、肉体よりも…精神。恐らく、お前は…記憶を失う。向こうの世界に来た目的も、理由も失う。この世界のことも、覚えていない。つまり…ブルーワールドについた時には、お前はすべてを失っているのだ」