「月影…」

「え?」

呟くように言った高坂の言葉に、中島は耳を疑った。

「ど、どうして…それを」
「都市伝説の一つとして、結構有名だぞ」

中島の言葉を遮るように、高坂は間髪を入れずに言葉を続けた。

それはまるで…肝心なことを言わさないようにするかのように…。

「高坂…」

そんな高坂の思いを汲み取った中島は、一度口を閉じてから、ゆっくりと頷いた。そして、高坂の目を見つめ、

「明日は、満月だ。深夜…学園の屋上に行けば…何とかなるかもしれない…」

それだけ言うと、足を止めた。

高坂は、そのまま止まることなく歩き続けた。

「ありがとう…」

微かな声で、礼だけを残して。

中島は振り向き、九鬼とともにいる理香子のもとに戻って行った。






次の日の夜。

高坂は、大月学園の時計台に一番近い…西館の屋上に来ていた。

なぜか、鍵はかかっておらず…高坂は簡単に屋上に上がることができた。

扉を開けた時、夜中とは思えない程の眩しい光が、高坂の目を直撃した。

反射的に目をつぶったが、恐る恐る…高坂は、目を開けた。

太陽を直視したくらい眩しいのに、なぜか…痛みを感じなかった。目を開けていられるのだ。

「お前か?異世界…いや、ブルーワールドに行きたいと申しておる者は」

「!?」

高坂は目を見開いた。

月からまるでスポットライトのように、光が落ち…1人の少女を照らしていた。

「き、君は?」

高坂は、その少女に見覚えがあった。中島の隣にいた…女生徒。

その美貌で、有名だった。

(相原…理香子?)

フルネームまで思い出したが、高坂の中の何かが否定した。

(いや…違う)

月明かりの中で、妖艶な笑みを浮かべる女は…少女には見えなかった。

高坂は、一歩前に出た。

「君は、誰だ」

「…」

高坂の言葉にも、女はすぐには答えず、しばらくじっと高坂を見つめていた。

高坂もただ、無言で見つめた。

やがて…女はおもむろに、話し始めた。