なぜならば、彼も、かつては…幾多だったからだ。

「…」

やはり何も言えない中島。

そんな中島に気付き、高坂はまたフッと笑い、

「…少しおかしなことを言うが、聞いてくれるか?」

中島の方を向かずに、訊いた。

「う、うん」

中島は頷いた。

高坂は軽く深呼吸をした後、

「幾多流はもう…この世界にいない。やつは、異世界に向かった」

顔をしかめた。

「異世界…」

中島は、呟くように言った。

「…」

高坂は目だけを動かし、中島を見た。

異世界という言葉を聞いても、驚くでもなく…笑うでもない中島の反応に、高坂は考え込んだ。

だけど、すぐにやめた。

考えても仕方がない。

高坂は、普通に話を続けた。

「だから…俺は、異世界に行きたい!あいつを追いたい!多分、あいつはこれからも…多くの人を殺す!俺は、やつを止めなければならない」

「…」

中島は口をつむんだ。呆れている訳ではない。

真剣に考えている。

そんな中島に、高坂はあり得ないことを訊いた。

「異世界に行く方法はないか?」

「!?」

その言葉に、中島は驚き、高坂の目を見つめた。

どうして、そんなことを訊く。

普通ならば…そう言うべきだろう。

しかし、中島は高坂の目を見るだけで、悟った。

こいつは、知っていると。

まだ、漠然とかもしれないが…自分の正体を。

だから、中島は…知っているという前提で、具体的なことは言わずに、口を開いた。

「異世界に、行くには…人間の力では無理だ。神のような力がいる。だけど…そんな力を持っているのは…」

中島の脳裏に、綾子の姿が浮かぶ。

しかし、女神テラである彼女は、人間を嫌っていた。

そんな綾子が、高坂の頼みをきくはずがなかった。

(だとすれば…もう1人)

中島は、後ろを振り返った。

いつのまにか…結構離れてしまった。

高坂も、中島の視線を追うように振り返った。

そこには、じゃれあう…九鬼と理香子がいた。